今回は、核白内障の患者様で単焦点眼内レンズを用いた白内障手術についてご紹介します。
核白内障とは、白内障の種類の一つです。(白内障にも多様な濁り方があります。)核白内障は水晶体の中央の部分の核が硬くなってくる白内障で、進行してもあまり視力は低下しません。しかし、視力低下の自覚が少ない分、強い視力低下を自覚する頃には、水晶体の硬度はかなり進行しているため今回の患者さまのように手術の難易度が高くなってきます。
硬い水晶体というのは、手術の際に使用する超音波の量が多くなることや、水晶体を支えるチン小帯に負担がかかるため、手術としての難易度が上がります。
【症例】80歳代・男性
数年前より右眼がほとんど見えず、左眼のみで生活していらっしゃったとのことです。しかし、その左眼も数か月前から急激に見えにくくなり生活に支障が出てきたので、白内障手術を検討したいとのことでした。
ご自宅の近隣の眼科で既に白内障の診断を受けていらっしゃいましたが、当院の白内障のブログなどを見て、手術についてしっかりと説明を聞きたいとのことで、遠方からお越しいただきました。
ーーーー患者さまのご希望ーーーー
単焦点眼内レンズで、眼鏡をかけてもいいので見えるようになりたい。
ーーーーレンズの決定・手術についてーーーー
この患者様の場合、右眼の白内障は、核白内障(Emery-Little分類Grade5)でした。核白内障は硬さが5段階に分類され、患者様は一番硬いGrade5に分類される硬さでした。
■写真①(右眼)
白内障は、水晶体が白く濁りますが、進行具合によって黄白色に濁ったり、茶色く濁る場合もあります。白内障の濁りは茶色になるほど硬く、特に写真①のように透き通ったように見える茶色はとても硬い状態と言えます。
■写真②(右眼)
写真②は、点眼薬で瞳孔を開いた状態です。
この患者様は、瞳孔の開きが3mmほどでした。通常は、7~8mm程瞳孔が開きますが、瞳孔があまり開かないということは、チン小帯(水晶体を周辺360°方向で支えている細い糸)が弱い可能性があります。水晶体が柔らかい場合、手術中のチン小帯にかかる負担(負担とは?)は軽度ですが、硬ければ硬いほどチン小帯にかかる負担が強くなります。核の硬さに加えて、チン小帯が弱い可能性もあるためより丁寧な手術が求められます。
白内障は、右眼だけでなく左眼もかなり進行しており視力が低下していました。左眼は右眼ほど硬くはないため、以前から見えていなかった右眼から白内障手術を行いました。
手術は、硬くなった水晶体を細かく分割し超音波で吸い取り、水晶体の替わりに単焦点眼内レンズを挿入しました。幸いチン小帯は思っていたほど弱くありませんでした。他の注意すべき合併症は、核が硬い場合は手術中に角膜内皮細胞が減り、術後に角膜が濁ってしまう合併症がありますが、患者様は翌日の診察から合併症はなく、良好でした。
また術中に使用する超音波の量が多いと、熱を発するので器具の出し入れをする創口に熱が加わり、創口が閉じなくなったり乱視が強くなるため、超音波の量を加減しながら慎重に手術を進めていきました。
右眼の術後経過は良好でしたので、予定通り手術後1週間あけて、翌週に左眼の手術も行いました。
【手術前の視力】
・右
0.03(0.04×S-3.00D)
・左
0.04(0.08×S-4.00D)
↓
【手術後の視力】
・右(手術2週間後)
0.3×IOL(1.0×IOL×S-2.00D:C-1.00DAX90°)
・左(手術1週間後)
0.5×IOL(1.0×IOL×-1.25)
手術前は両眼ともほとんど見えていないかった為、あきらめていた右眼も視力が回復し、大変喜んでいただけました。また、今回は単焦点眼内レンズを挿入しましたが、裸眼で近方も遠方も見えるとのことで眼鏡は必要ないということでした。
白内障と診断されて片方の目が見えにくいという方は、今見えている方の目が見えにくくなった際に、すぐに生活に支障をきたす可能性があります。白内障手術は、片眼だけや両眼同時に行うなど、患者様の予定や目の状態、健康状態に合わせて日帰りで行うことが出来る手術ですので、気になる症状がある方は、是非一度、眼科にて眼の状態を確認しておくことをおすすめいたします。