白内障手術眼内レンズの選び方

眼内レンズの選び方

白内障手術で取り除いた水晶体の代わりに眼内に挿入するレンズを「眼内レンズ」といいます。眼内レンズは「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」のどちらかを選択することができます。どちらにも乱視矯正ができるレンズがあり、乱視がある方は白内障手術と同時に乱視矯正をすることができます。
眼内レンズは直径6mm程のサイズで、眼内でのズレを防ぐための固定ループ付きのものやプレート状のものなど様々な形や種類があります。
患者さまの生活スタイルや見え方のご希望を医師にしっかりと伝え、最適なレンズを選べるようにすることが大切です。

➀ 焦点距離(見たい距離)で選ぶ

眼内レンズは、人間の目に備わっている水晶体のように全ての焦点に合わることはできません。最適な眼内レンズを選択するために、日常生活でどれくらいの距離でものを見ることが多いか、そして、どれくらい遠くのものを見たいかを考慮する必要があります。
例えば、単焦点眼内レンズを選択した場合は、術後にピントが合う位置は一か所になります。「遠方」に合わせた場合は「近方」がぼやけるため、「近方」を見る際には眼鏡が必要になります。「近方」に合わせた場合は、上記の逆になります。
一方で、多焦点眼内レンズを選択した場合は、「近方」にもピントが合うため、眼鏡に頼る頻度は低くなります。多焦点眼内レンズは、2焦点・3焦点・5焦点など合わせる焦点が多いタイプもあり、眼鏡の装用を減らしたい方に向いているともいえます。
選択する眼内レンズによってメリット・デメリットがあります。医師からの説明をよく聞いた上で、術後に満足のいく視機能を取り戻せるよう、眼内レンズの特性をしっかりとご理解いただき、ご自身にとっての最適な焦点距離(ピント距離)をお考えいただくのが良いと思います。

単焦点
多焦点
 
 
 

行動・動作による距離感の目安

 

②生活スタイルで選ぶ

患者さまが日常生活を送る上で欠かせない作業に合わせてレンズの種類を選択することも可能です。
その場合は“裸眼で見たい範囲が鮮明に見える眼内レンズ”が最適なものと考えられています。各眼内レンズの鮮明に見える範囲とご自身の生活スタイルを考慮して、最適なレンズを選択しましょう。

術後に眼鏡なしで行いたいことはどのようなことでしょう?

スマートフォン 30~40㎝
新聞・読書 30~50㎝
PC・事務作業 50~70㎝
食事 40~60㎝
料理 50㎝~1m
会話 ~1m
TV 1~5m
散歩 1~5m
スポーツ ~5m
車の運転 ~5m

③ 費用で選ぶ

白内障手術で用いられる眼内レンズは年々多様化していますが、費用は大きく分けて3種類に分けられます。
1⃣ 保険適応
2⃣ 選定療養
3⃣ 自由診療

1⃣ 保険適応

単焦点眼内レンズを用いる場合は、保険適応の対象となります。
また、「レンティスコンフォート®」「レンティスコンフォート®トーリック(乱視矯正)」は多焦点眼内レンズですが保険適応となります。こちらの場合も単焦点眼内レンズと同様の手術費用となります。

費用(片目)
保険割合 手術費用(※1)
1割負担 約17,000円
2割負担 約34,000円
3割負担 約51,000円

※金額は、手術の際に使用する薬剤や処置によって多少変動します。

2⃣ 選定療養

2020年4月より、保険外併用療養費制度内の「選定療養」という枠組みで、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術も行えるようになりました。厚生労働省の選定療養制度認定施設のみで実施することができ、厚生労働省認可の多焦点眼内レンズ(選定療養対象レンズ)を使用した白内障手術の場合に「選定療養」が適用されます。

選定療養とは、患者さまに追加費用(保険適応とならない部分の検査費用と差額の眼内レンズ代)をご負担いただくことで、保険適用治療と複合して治療を受けることができます。レンズ代の一部(保険適応レンズ代金との差額)のみを自己負担することで、自由診療のレンズに比べて費用を抑えて多焦点眼内レンズを用いることができます。

3⃣ 自由診療

見え方の質などが優れていると評価されている海外輸入による多焦点眼内レンズが自由診療となります。現在、日本国内の薬事法では薬事承認されていないため、保険診療・選定療養では扱えない眼内レンズということになります。

眼内レンズは、医薬品という扱いになるため、薬事法で定められた審査を受けて薬事承認を得なければ、日本国内の保険診療で使用することができません。
保険診療で使用する単焦点眼内レンズや、選定療養で選択する多焦点眼内レンズは、全て薬事承認された眼内レンズということになります。

世界に目を向けると、日本では薬事承認されていない、新しい多焦点眼内レンズが多く登場しています。各国・地域によって日本と同様な承認制度があり、アメリカの医薬品承認制度はFDA、EU諸国ではCEマークを取得することで承認を受けたことになります。
アメリカのレンズメーカー(Alcon社・AMO社)は日本国内の薬事承認を取得しますが、EUのメーカー(イタリア・ドイツ・オランダ・ベルギーなど)は日本の薬事承認を取得しない方針であるため、EU諸国から輸入する眼内レンズはすべて自由診療となります。

治療費は、全てが自由診療となるため高額になりますが、アメリカ・EU基準の非常に高性能の眼内レンズが多くあり5焦点などより見え方を追求される方に向いているといえます。

眼内レンズの種類

眼内レンズの種類は、「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類あります。
両レンズとも乱視矯正レンズを取り扱っており、白内障手術と同時に乱視矯正を行うことが出来ます。それぞれの特徴をご紹介します。

① 単焦点眼内レンズ

  • ナチュラルな見え方
  • 焦点距離目安:遠・中・近のいずれか
  • 保険適用の対象

単焦点眼内レンズは、遠方・中間・近方のいずれか一つにピントが合う眼内レンズです。ピントを合わせた距離の場所を鮮明に見ることができます。
遠方にピントを設定する場合は手元が見えにくくなり、近方に設定する場合は遠方が見えにくくなり、どちらの場合も眼鏡による矯正が必要となります。
また、単焦点眼内レンズを用いた白内障手術は保険適応になります。

➁ 多焦点眼内レンズ
(低加入度数:遠近タイプ)

  • 中間だけでなく遠方も見える
  • 焦点距離目安:約50cm・遠方

中間・近方の焦点を合わせることができる眼内レンズで身の周りよく見えます。焦点が合う範囲内であれば鮮明にものを見ることができます。
多焦点眼内レンズではハロー・グレアなどの特徴的な不快症状が生じることがあります。
手元を見るためには眼鏡の併用が必要になる場合があります。

➂ 多焦点眼内レンズ
(高加入度数:遠近タイプ)

  • 近方だけでなく遠方も見える
  • 焦点距離目安:約30cm・遠方
  • 選定療養となります。

遠方・近方に合わせることができる眼内レンズです。焦点が合う範囲が広いため、日常生活においては裸眼で過ごすことができる場合が多いですが、補助的な役割でメガネを準備して頂く必要があるケースもございます。
多焦点眼内レンズではハロー・グレアなどの特徴的な不快症状が生じることがあります。

※加入度数:遠くでみる度数と近くを見る度数の差。

④ 多焦点眼内レンズ
(EDOF型:焦点拡張型)

遠方~60cmまで視力の落ち込みなくバランスよく見えるレンズです。
遠近眼内レンズと比べてグレア・ハローが少なく色収差も少ないためコントラスト(くっきり感)も悪くありません。手元を見る場合には眼鏡の併用が必要になる場合があります。

⑤ トーリック眼内レンズ(乱視用)

白内障の治療だけでなく、乱視矯正効果も期待できるタイプのレンズです。
単焦点・多焦点いずれの場合も選択可能(遠近2焦点レンズは除く)です。
なお、トーリック眼内レンズは、角膜の歪みによって生じた乱視を矯正する効果がありますが、乱視の性質や目の状態によっては不適合となる場合もあります。

乱視

水晶体や角膜が歪むことが原因となり乱視が生じ、ものが鮮明に見づらいなどの症状があらわれます。乱視が起こると見え方が不均等になるとともに、見え方には個人差があります。

多焦点眼内レンズの注意点

多焦点眼内レンズは、白内障手術を受けられる方全員に適応があるわけではありません。
検査結果・患者さまの目の状態、どのような見え方を希望しているかによっては、多焦点眼内レンズが適さない場合もあるため、ご希望の眼内レンズを選択できない可能性もあります。

見え方が合わないことがある

  • 職業上、細かくものを見る必要がある方
    (デザイン関係、歯科医、カメラマンなど)
  • 夜間の運転を頻繁にされる方
  • 白内障以外に目の疾患を患っており、医師の判断で不適合となる方など

ハロー・グレア

ハローグレア

多焦点眼内レンズの光学的特性によって、夜間の街灯や車のランプなど光の周辺に輪(リング状)が見える「ハロー」や、光をまぶしく感じる、ぎらついて感じる「グレア」の症状があらわれることがあります。
こうした症状は時間が経つにつれて軽減される・なくなるとも言われていますが、夜間や暗い場所で症状を感じやすいため、夜間に頻繁に外出される方や夜間に自動車を運転される方は眼内レンズの選択時に考慮する必要があります。
また、レンズの種類によっては、このような影響が少ない、もしくは、比較的少ないものもあります。

コントラスト感度

コントラス感度とは映像の場合のシャープさなどの見え方の質に関わるものです。色の濃淡や視覚の対象物の輪郭を判別する能力です。
多焦点眼内レンズを使う場合、このコントラスト感度の低下を招く恐れがあります。術後間もない時期は気になっていても、時間の経過に伴い順応していく場合が多いですが、ある程度時間が経ってもなかなか順応できない方も稀にいらっしゃいます。

慣れるまで時間がかかることがある

手術直後は、見え方がすぐに改善されない場合があります。脳がすぐに多焦点眼内レンズの見え方に順応しないために、慣れるまで数週間〜数か月を要する場合もあり、高齢の方に比較的多く起こります。遠近両用メガネやコンタクトレンズの使用経験がある方は順応しやすいとされています。

眼鏡による矯正が必要なこともある

多焦点眼内レンズの場合でも眼鏡の併用が望ましい場合もあります。見えづらさがある場合は、医師と相談して眼鏡の併用をご検討ください。

多焦点眼内レンズに
向いていない方

多焦点眼内レンズは光を振り分け、様々な距離で焦点が合うようにするレンズを用いており、基本的には白内障以外の目の疾患を患っていない方に適しています。

  •  網膜、特に黄斑部の疾患を患っている方。
    軽症の場合は手術できるケースもありますが、検査結果を基に実施可否を医師が判断します。
  • 視神経疾患(主に緑内障)によって中心部でも視野障害が起こっている方
    発症初期の緑内障で視野障害が軽度であれば手術できるケースもあります。
  • 角膜不正乱視を起こしている方。
    ご自身で認識されていないことも多いですが、過去の疾患による後遺症や加齢によって角膜にわずかに濁りが生じている場合があります。
    手術前に角膜形状解析検査を行って手術が可能かどうかを判断します。軽症であれば手術できることもあります。
  • 神経質な方。
    このケースが最も判断に迷うものです。理由は、どなたでも神経質な部分やおっとりした部分を持ち合わせており、性格を一概に言い表すことは難しいためです。

ご自身の大切な身体を手術することになり、尚且つ手術を受ける経験は人生で頻繁にあるものではないため、多少は神経質になることもやむを得ませんが、多焦点眼内レンズが登場した頃から、完璧主義の方には多焦点眼内レンズは適していないと考えられています。それは、完璧主義の方は、手術で症状が改善したという事実よりも、眼内レンズの欠点ばかりに目が向いてしまい、悩まれてしまう方がいらっしゃるからです。環境変化に順応するには一定の時間が必要ですので、日常生活を送る中でレンズの性質を理解できるようになれば、自然と解消されることが多いです。

図

多焦点眼内レンズには、デメリットと感じられることもいくつかあります。そうしたデメリットをよくご理解いただいた上で選択されることをお勧めいたします。
レンズをお決めになるに当たって、気になることや分からないことが少しでもあれば、どのようなことでも医師にご確認ください。

選定療養レンズ・自由診療レンズそれぞれの特性

選定療養について

老眼矯正の治療も兼ねた白内障手術で多焦点眼内レンズを使用する場合は、これまで国内では先進医療の扱いとなっていました。しかし、2020年4月以降は先進医療から選定療養の扱いへと変更しています。なお、輸入レンズを使用する場合は、引き続き自由診療の扱いとなります。

選定療養で白内障手術(水晶体再建術)を実施する場合、保険適用となる単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの差額費用に加えて、多焦点眼内レンズ手術に必要な検査費用が追加費用として発生します。

選定療養の多焦点眼内レンズ
(国内承認IOL)

厚生労働省より「眼鏡装用率を軽減する」と認められており、薬事承認されている選定療養に認可されているもの(選定療養対象レンズ)に限り用いることができます。

自由診療について

眼内レンズは医薬品扱いとなり、国内で保険適用を受けるためには、薬事法に則った審査を通過する必要があります。選定療養で用いられる多焦点眼内レンズはいずれも薬事承認されたものです。
なお、世界的には最新の多焦点眼内レンズが続々登場しています。各国で日本と同じように承認が必要であり、EU諸国ではCEマーク、アメリカの医薬品認証はFDAが承認の証となります。アメリカの企業(Alcon社・AMO社)は日本国内で薬事承認が下りていますが、EU企業(イタリア、ドイツ、オランダ、ベルギーなど)は日本の薬事承認を取得しない方針であるため、EU諸国の眼内レンズを使用する際はすべて自由診療扱いとなります。
日本の薬事承認の取得には一定の時間が必要となりますので、自由診療で用いられるレンズは比較的最近に登場したものであることが多いです。
また、薬事承認がおりたレンズは製造範囲が一定に定められており、非常に強い近視の方などは最適なレンズが存在しないこともあります。その場合、EU諸国の多焦点眼内レンズであればラインナップが豊富なため、最適なレンズが見つかりやすいこともあります。

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