最近の当院の白内障手術では、「レンティスコンフォート®」という保険診療で使用できる多焦点眼内レンズを希望される患者さまが多くいらっしゃいます。
保険診療で選択できる眼内レンズは、単焦点眼内レンズが一般的ですが、当院では厚生労働省認定の保険診療で使用できる「レンティスコンフォート®」も導入していることから、ブログや既に当院で手術をされた方からのご紹介でご興味のある方からのご相談が増えています。
眼内レンズは、「単焦点眼内レンズ」が中心だった時代から、現在は多くの「多焦点眼内レンズ」が導入され、患者さまの手術後の見え方の選択肢は幅広くなったなぁと改めて感じております。
さて、最近の当院の白内障手術の話が長くなりましたが、今回は、強度近視の患者さまの白内障手術についてご紹介します。
70歳代の女性の患者さまで、右眼の歪視(物が歪んでみえる状態)が気になるとのことで受診されました。
視力(初診時)
右:0.01 (0.15×S-26.00:cyl-1.50Ax25°)
左:0.04 (0.15×S-17.00:cyl-3.50Ax5°)
両眼とも の部分が最強度近視の基準である-10.25Dを超えているので、両眼とも最強度近視ということになります。特に右眼の屈折度は-26.00Dとなっており、最強度近視の度数(-10.25D)の2倍以上の屈折度数となっているため、近視の程度が非常に強いことになります。
※-10.25Dの「D」とは、ジオプターといって屈折度を表す単位のことです。
白内障手術をする前の水晶体の度数は、20Dが平均となっています。
眼軸長
右:33.23mm
左:31.40mm
眼軸長は、正視(近視がない方)の場合は23~24mm、強度近視で27mm以上といわれています。右眼は6mm、左眼は4mm近く長いことになり、かなり長いことになります。
視力(矯正あり)
右:0.15
左:0.15
写真①(右眼の白内障:白と茶色のような部分)
ご相談の右眼の歪みの原因は、強度近視に特有の網膜による症状だと思われましたが、他にも網膜前膜や近視性脈絡膜新生血管症などの疾患も考えられます。
診察の結果(写真①)、かなり進んだ白内障があったので網膜の状態ははっきりと分からないこと、白内障があるため白内障手術をすることで視力は向上しますが気にされている歪みは残ってしまう可能性が高いことをご説明しました。
また、強度近視の方の場合、網膜の中心部分(黄斑部)が傷んでいれば、白内障手術を行い水晶体の濁りを取り除いても視力が出ない可能性もありましたので併せてご説明しました。
患者さまは、まずは白内障を治すことを希望されたため、両眼の白内障手術をすることになりました。
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、水晶体の替わりに眼内レンズを挿入します。その為、患者さまの見え方の希望に沿った眼内レンズを決定していきます。
患者さまは、強度近視で近方にピントが合うことに慣れていらっしゃいますので、術後は眼前30cmにピントが合うように計算して眼内レンズの度数を算出することにしました。
結果、挿入すべき眼内レンズの度数はかなり弱い度数となり、通常の眼内レンズの制作範囲(+5.00~+30.00)では合うレンズがないことがわかりました。
実際に、今回の患者さまの眼内レンズは、現行の眼内レンズの製作範囲内では適応するレンズはありませんでした。以前にも同じような最強度近視の患者さまの白内障手術をしたことがあり、その時も特注のレンズを使用しました。そこで使用したメーカーさんに問い合わせ、まだ取り扱いがあるか尋ねたところ、幸いにもまだ取り扱いがありましたので取り寄せました。(このメーカーさんが取り扱いをやめていれば、最強度近視の方に合う眼内レンズはなかったかもしれません。本当に有難い存在です。)
写真②(術前の眼底写真)
【左眼】 【右眼】
先述したように強度近視眼の方は進行性の病気でなくても網膜が弱くなっており、白内障手術をしても矯正視力がでない可能性があります。
今回の患者さまも同様で、写真②のような術前の眼底写真になりました。
白内障の影響ではっきりとは写っていませんが、網膜の中心部分は白くなっており、脈絡膜委縮といって網膜の外側の脈絡膜が薄くなっているのがわかります。この状態ですと網膜も傷んでいる可能性が高く、特に右眼は白内障の影響で詳細な網膜の状態の把握が困難です。そのため、患者さまには術後の矯正視力は両眼とも良くて0.6くらいとお話していました。
眼内レンズの選定も決まり、2週に分けて両眼の手術を無事に終了しました。
手術後、右眼:2週間後、左眼:1週間後の視力検査では、
視力(矯正あり)
右:(0.8×S-2.00:cyl-2.00Ax180°)
左:(0.8×S-2.50:cyl-1.50Ax15°)
手術は両眼とも順調で、術後の視力は予想より良く、今後もさらに向上する可能性があります。
両眼での裸眼視力
遠方:0.5
近方:0.5
良く見えるので、眼鏡なしで不便を感じないとおっしゃっていました。
今回の眼内レンズは、乱視矯正タイプのレンズが作られていないため乱視は残っていますが、近方は乱視があっても見えますので、ほとんど支障はないと思います。
また右眼の歪視は、やはり残っておりますが患者さま自身はそれほど気にならないとのことでした。
手術前までは、近視が非常に強く、普段はハードコンタクトレンズを装用されておりました。しかし、白内障手術により、近視が弱くなったため裸眼で生活できるようになったと喜んでいただけました。
強度近視の場合、網膜の中心部分(黄斑部)が傷んでいることも多く、白内障手術を行い水晶体の濁りを取り除いても視力が出ないという可能性もありましたので安心いたしました。
強度近視の患者さまは、網膜の病気になりやすいため術前検査がとても重要ですが、白内障の影響により網膜の状態を完全に把握することが困難な場合もあります。そのために、手術前に、手術後の視力や両眼での見え方をしっかりとシュミレーションし患者さまにご説明することが大切だと思っています。
白内障手術は、手術後には今まで以上に見えるようになるという患者さまの期待が大きい手術だと感じています。趣味をもっと楽しみたい、生まれてくるお孫さんのお顔がはっきりみたいなど、患者さまによって期待は様々ですが、手術後の見え方を丁寧にシュミレーションし、丁寧に手術することで、患者さまのご期待に応えていきたいと思っています。